よきにはからえ

おもしろきこともなき世をおもしろく、住みなすものは心なりけり

嫁と数年ぶりに飲みに行った。

昨晩、嫁と数年ぶりに飲みに行った。

昼に子供をばぁばぁの家に預けていたのだが、そのまま晩御飯も食べて行くことになったので、じゃあ久しぶりに2人でどこか行きますかという流れになった。

家近の居酒屋はあまり知らないので、勢いで路地裏の一画にある店ののれんをくぐった。選んだ居酒屋は、チェーン店のような雰囲気を漂わせる、個人居酒屋だった。ラミネート加工されたメニューは、大衆系居酒屋の標準的なそれを思わせるデザインだったので、最初はチェーン店かと思ったが、ホールを見るとおばあちゃん3人で切り盛りしてて、料理全てに対して取り分けて出してくれるアットホームな暖かさがあったので、最終的に、個人居酒屋だろうと勝手に結論づけた。

繁盛している感じではないが、何組か仕事帰り風の客が入っており、店内はまぁまぁうるさかった。

ラミネート加工されたメニューの中から、オーダーを決めて、おばあちゃんAに伝える。何度か、はい?みたいなリアクションをされたが、最終的にうまく伝わったようで、そこで一旦落ち着く。

そして、ちょっと気まずい沈黙が流れる。

あれ?何を話せばいいんだろうかと、一瞬戸惑った。嫁もそんな顔してた。気がする。

結婚する前は、こんなことなかった。

他愛のない話から真面目な話まで、その時の気分に応じて、どちらともなく話を切り出し、それなりにテンポよく会話していた。当然、沈黙の時間というのは、少なからず存在したが、決して、気まずさを感じるようなものではなかった。

そして結婚して、7年の月日が経った今、おばあちゃんズが切り盛りする居酒屋で、何を話せばいいか、割と本気で焦燥している自分がいる。

聞くことはいくらでもあった。普段は子育てでお互いについて話す時間もなければ、余裕もない。仕事の話や、交友関係の話など、積もる話はいくらでもあったはずだ。

だが、なんとなくストレートに聞くことに違和感を感じでしまう自分がいて、うまい切り出しが見つからなかった。

そこで、おばあちゃんBがドリンクを持ってくる。僕が頼んだ生ビールはやはりチェーン店のそれのような、機械的な味がした。

上記の背景もあり、僕たちの会話は、自然と子供達に向かっていった。いつも散々家でやっている子供の会話であるが、場所を変えて2人きりでやると、普段とは異なる色彩を帯びてくる。日常生活の会話は、どちらかと言えば事務的な内容が多いが、その時は、会社の役員会のような、上位目線で総括的な話をした。これまでの子育てのダイジェストから始まり、将来の方向性についてお互いの想いみたいなものをぶつけ合った。

子供の話が一通り終わったところで、おばあちゃんCが、最後の茶漬けを持ってきた。ついでに串盛り合わせも置いてきたので、それはうちじゃありませんと言うと、あぁそうですかと、ゆっくりしたテンポで皿を下げてった。

子供の話で場が温まったのか、最後にようやく、互いの仕事や友達の話になった。

久々に、嫁の友人の名前を聞いて、自分は会ったことはないのに、なぜか懐かしい気持ちになった。嫁の友達がエジプト人によるロマンス詐欺に引っかかった話と、嫁の別の友達が最近結婚したが、奥さんが闇落ちして大変だという話しを聞いた。

そして、ばぁばぁから電話がかかってきたところで、お開きになった。おばあちゃんDが伝票を持ってきた。そこで、4人目がいたことを知る。ポケモンで新キャラを発見した時の高揚感に一瞬浸る。

今回嫁と久しぶりに飲んで、改めて、夫婦の関係というのは、時の流れとともに変遷していることを感じた。

結婚する前は、互いのことをもっと知るために、歩み寄ろうとする磁力みたいなものが働いてた。そして互いの距離が近づききった今では、逆にこれ以上近づきすぎないような反力も働くときがあり、時々遠ざかるように感じることもある。

これが最適な間合いかどうかはわからないが、この付かず離れずの状態のまま、この先も浮遊するように変遷していくのだろうなと思った。

外はまだ肌寒くて、水の滴り落ちる音が、まだ雨が上がったばかりであることを知らせていた。そんな中、子供たちが待ってる家に帰った。